071875 ランダム
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BONDS~絆~

BONDS~絆~

夏の終わり(下)

青春


「え・・・」
不安に似た快感と、わずかな自己嫌悪を感じた。
「どうして・・・」
頬が上がるのを必死で抑えながら聞いた。
「進学するから、サナは遠距離恋愛無理だろうからって・・・ひっく」
タツヤの意見に私は納得してしまった。
普段の学校生活から見ていてもサナはタツヤにべったりなのだ。
女友達とよりも、タツヤと一緒にいる方が多い。そんなサナが、遠距離に耐えられるのは多く見ても1週間だ。
それ以上だと、サナはノイローゼになってしまうだろう。
だから私はサナに同意する言葉が何もいえなかった。

「サナも、今から勉強したらタツヤと同じ大学じゃなくても、一緒に居られる距離のところにいけるんじゃない?サナはやれば出来る子だもん!」
口から自然に出た言葉。でも、サナを元気付けられたとわかったときは嬉しかった。
「どうして急に進学にしたのか聞いても教えてくれないの。気が変わったの一点張り。納得できるわけないじゃないっ」
私はサナの頭を撫で、サナを心から抱き締めた。
「サナ、泣かないで?明日タツヤに聞いてみるから。だから、明日ケイゴと同じ部屋でもいい?そのほうが安心するでしょう?」
サナはしゃっくりをしながら私の胸元で頷いた。
かすかな期待が胸を過ぎったのは否定できない。
翌朝、予想通り男女別行動となった。朝食のときタツヤとケイゴの姿は見えなかったのは好都合だった。サナがタツヤを見かけた途端泣き叫びかねないからだ。
私とケイゴは、携帯で連絡を取り合ってそれぞれ会わないように観光した。

「サナ、明るくしてくれるのは嬉しいけど無理はしないでね」
観光にでる前にホテルの玄関で私はサナに言った。
だが、優しいサナはやはり無理をした。もしかすると、私がサナに言った言葉で、より、サナを無理させたのかもしれない。
観光の途中カフェで珈琲を飲んでいて、少し黙るとサナの手は止まり、瞬きすらしなくなるのが頻繁にあった。
どんなに楽しそうな話題も総て無意味というカテゴリーに含まれてしまうほどだった。
サナの疲れが見えてきた頃、今日泊るホテルに行った。
すると、ロビーでタツヤとケイゴに鉢合わせした。せっかく会わないようにしていたのに、最後のツメが甘かった。

「あれー?ケイゴ早いね!」
まるで、そこにタツヤがいないかのようにサナは叫んだ。
「俺も驚いたよ。女は買い物長いから・・・サナたちは例外だったんだな」
「何か疲れちゃってね~あ、でもちょうど良かったね!ここで会わなきゃ部屋わかんなかったもん!ケイゴ、いこっ」
「えっ?ケイゴ?」
タツヤは突然の状況に戸惑っていた様子だった。
ケイゴはタツヤに部屋変更の話をしていなかったようだ。

「あっタツヤゴメン!サナ借りる!」
そう言い残し、ケイゴとサナはエレベーターに消えた。
「はぁー!?意味わかんねーし」
「まぁ良いじゃん。私じゃ不満かしら?」
「・・・サナよりは良い」
「何それ~詳しく聞かせろ~」
「俺だって聞いてほしいよ」
囁くように言ったタツヤの独り言を聞き逃しはしなかった。私とタツヤもケイゴたちとは違うエレベーターに乗り、無言のまま部屋に入った。
「今日はベッドなんだね!」
「予定が予定だったからな」
タツヤが突き放すように言った。
「ねぇ・・・昨日、一昨日進学にするって決めたの?」
「まさか!ずっと前からだよ!今回は最後の思い出の旅行にしようと思っていたんだ。・・・あぁ、そういうことか、だから俺とお前なんだな
「ん?」
「いや、なんでもない」
タツヤは着替え始めた。私も鞄に入っている荷物を取り出していた。
「2年のときだよ、進学に決めたのは」
突然話し始めた。一瞬荷物を取り出す手が止まりながらも「うん」と相槌を入れ、タツヤの話に耳を傾けた。
「このままじゃダメだと思ったんだ。このまま一緒にいても俺ら成長しないだろうなってのが見えてたんだ。サナは俺に甘えすぎだし、俺は厳しくいってこなかった。このままじゃただ年齢を重ねていくだけだとしか考えられなくて、急遽進学にしたら、サナは俺を少しでも嫌いになってくれるんじゃないかと思ったんだ」
「それ、きちんとサナに言った?」
「言ってない。まだ明日旅行あるから、最後まで話さないほうがいいかなと思ってさ」
「そうかな・・・理由をきちんと聞かされずに旅行なんて楽しめないと思うよ。スッキリはしないかもしれないけれど、理由言ってあげたほうがいいと思うな。それじゃ、タツヤはただ逃げているようにしか見えないもん」
「・・・っ」
「決めるのはタツヤだから、これ以上何も言わないけど、タツヤが今サナの立場にたったらどう思う?」
タツヤと私はその場を動かずお互いの目をじっと見ていた。
「俺、子供だ」
「誰でも子供な部分あるよ」
「ミツは俺より数倍大人だな」
「そんなことないよ」
想いを素直に伝えられないでいるのは大人なんかじゃない。いつまでも同じところにいて、成長しない子供だよ。
それこそ、別れを告げたタツヤの方が大人だと私は思った。

「今晩、サナと話すよ。夕食のあと・・・いいか?」
「うん、私もケイゴと話あるからこの部屋使いなよ」
「サンキュ、ミツは姉貴みたいだな」
「あはは、困った弟だよ」
「お世話になります」
「はいはい、じゃケイゴにメールしておくね」
「あぁ、悪いな」
「いいえ、可愛い弟のためよ」
「さすが」
『タツヤがサナと夕食後こっちの部屋で話し合うことに決めたから、サナに荷物をそんなに出さないように適当な理由つけて言っといてください。私もケイゴに話あるんだ(^0^)じゃ、夕食のときにね』
とケイゴにメールした。

「よし、じゃ夕食は4人で食べるんだね」
「そうだな、サナ許すかな」
「タツヤのほうに寄ってはこないかもしれないけど大丈夫だよ、てか大丈夫にするよ」
「何から何まで悪いな」
「なんもいいよ、何せ・・・」
チャラチャララ~♪ケイゴからメールが返ってきた。
「あ、ケイゴだ」
『わかった、ところで俺が聞くのも変なんだけど、タツヤに告ったのか?』
『告ってないよ、その話を後でしたかったの』
『そうか、何だか怖いな。じゃあとで』

「で?」
「ん?」
「何せ、何?」
「ん?何せって何?」
「お前が言いかけたんだろ!」
「そうだっけ?忘れちゃった」
「まぁいいさ」
そう言い、タツヤはベッドに倒れこんだ。
「ミツが彼女だったら良かったのにな」
「もっと昔に言ってよ」
「そうだな・・・」
「何?そうだなって!」
「中学のときお前、俺に夢中だったことを思い出して」
「は~!?夢中って何?そんなわけないじゃん!」
「嘘つくとき、ミツは必ず声が大きくなる」
「・・・っ!そんなこと言われたら誰だって声大きくなるよ!」
「そう?まぁいいじゃん。今は違うんだし。あの時俺は・・・あぁ、他校のサッカー部のマネージャーが好きだったんだな」
「何溜息ついてんのよ、オヤジくさっ」
「それがサナだったんだよ」
「えっ?そうなんだ!」
「うん、何でこんなんになっちまったんだろ~ハァ」
「幸せなときは一杯あったんだし、これからもそうなるんだからそんなこと言わないの!」
「へいへい、ねみ~・・・夕食んとき起こして・・・・・・くー・・・」
「早いな、まぁ、仕方ないか。今日は一杯考え事したもんね」
タツヤは私が彼をスキだったことを知っていた。それにケイゴも気付いていた。私って顔に出やすいのかな?ってことはサナにバレている可能性もあるんだ!どうしよう!もし、サナが気付いていたら私と接するの苦しかったはず!!隣で寝息を立てているサナの彼氏・・・今なら誰にも気付かれること無く、タツヤを独占できる。キスできる・・・。
そう思うと、心の中が妙に興奮した。ドクンドクン・・・。鼓動がどんどん早くなっていく。私の足が自然とタツヤのほうへ向かっていく。
ダメだとはわかっている。だけど・・・・どうせバレちゃうなら何も後悔なんてしない。その想いが私を勢いづけた。
私は膝をタツヤのベッドに置いた。すると、ギシッと軋む音がして一瞬焦ったけど、タツヤはそのまま眠っている様子だったから安心した。
左手をタツヤの右頬の横に、右手をタツヤの左頬の横に置き、私の顔を彼の顔に近づけた。あと数センチで唇が重なる。
そのとき、タツヤの眼が急に開き、腕をつかまれた。

「お前、気配消すの下手だな」
そして、顔を上げて私の唇と重ねた。私は動けなかった。
彼の腕力が強かったのか、私の抵抗力が弱かったのかわからなかったが、私はタツヤのなすがままだった。
彼は起き上がり、私を倒し、仰向けにした。

「タツヤ、ダメだよ・・・」
「じゃあ抵抗しろよ」
出来なかった。
「お前の体は素直だな。俺もだけど・・・」
タツヤは慣れた手つきで服を一枚づつ丁寧に脱がせ、彼自信も脱いだ。タツヤの裸体はごつごつしていて、男らしかった。
「ミツ、かわいいよ」
タツヤは独り言のように呟き、キスをした。ベッドは古いのかよく軋んだ。
「タツヤ・・・ダメだよ」
「どうして?」
「だって・・・タツヤ」
「いいじゃん、ミツ可愛いよ」
「そうじゃなくて・・・サナに悪いよ」
「バレなきゃいいよ」
はっきりとタツヤはそう言った。その瞬間私は魔法がとけたかのように我にかえった。
「ダメだよ」
タツヤの手を振り解き、迫ってくる指や唇も拒んだ。
「何、終わり?」
「タツヤ、サナがスキなんじゃないの?」
「ミツだってケイゴがスキなんじゃないの?」
「スキよ」
「お互い様じゃん。幼馴染みがセフレでもいいんじゃない?」
「よくないよ!私も私だけど、タツヤも一人を好きでいなきゃ・・・4人の関係終わっちゃうよ」
「俺はそれでも別にいいよ。結局高校卒業したら、ミツと俺は地方に、サナとケイゴは地元で就職なんだ。そうしたら、その先に見えているのはハッキリしているんじゃないか?」
「してない!遠距離だって続くよ・・・」
「そんな面倒なこと俺は出来ない。俺は、女は近くにいないと嫌だ」
「そんな・・・」
私だってタツヤならいいかなとは思うけど・・・
「サナが可哀想だよ」
「すきでもないのに一緒にいるほうが可哀想だと思うけど」
タツヤの言うことは妙に的を得ていていて言い返せない自分に腹が立った。
「ってか迫ってきたのミツなのに、途中でやめるとか卑怯じゃない?」
「卑怯じゃない!・・・ご飯いこう・・・」
「・・・そうだな」
この部屋を出て食堂へ向かうということは、もうタツヤとは暫くの間口を利かないことを示す。
「ミツ、ゴメン」
部屋を出る直前にタツヤがいった。
「ううん、私からだったし・・・」
「そうじゃなくて・・・いや、それもあるんだけど俺も俺だし、お互いケジメつけような」
「うん」
『ケジメ』私はケイゴと付き合いつづけて、タツヤはサナと仲直りする。その先に何があっても知らない。今が大切なんだ。そんな風に聞こえた。
ドアを開けて廊下にでると、サナとケイゴの後姿が見えた。先に食堂にいって席をとるつもりだったのだろうか。

「タツヤ、決めなよ」
「あぁ」
食堂に着き、バイキングで好きな料理を取ってケイゴとサナの姿を探した。すると、ケイゴがこっちを見て手を振っていた。
「先に来てると思ったよ」
サナの皿にライチは無かった。
「あれ?サナ、ライチ食べないの?」
「うん、残しちゃうといけないから・・・」
「食えよ」
「良いの!」
「残ったら、俺食うから」
「・・・っ・・・何よ・・・どうして何もなかったように話すのよ!」
「・・・ミツ、行こう」
「うん」
「サンキュ」
「あぁ」
ケイゴの隣に座っていたサナは立ち上がるケイゴを淋しそうに見つめていた。そんなサナに、ケイゴは微笑み返した。

「ケイゴ、私告白したよ」
ずっと気にしている様子だったから話した。
「そっか、どうだった?」
「タツヤも知ってた、私の気持ち。スッキリしたよ」
「・・・心変わりした?」
「うん・・・今はケイゴだけがスキだよ」
「そうか・・・やった!あとはあの二人が幸せになってくれれば最高なんだけどな」
「そうだね」
そうだろうか。さっきタツヤと話していたのを思い出すと『ケジメ』は表面上の言葉にしかきこえない。タツヤの本心が未だにわからない。
「ミツ、食べないのか?」
「ううん!あの二人のことが気になっただけよ」
「なるようになるさ」
「うん・・・」
私とケイゴは先に食堂を出て、タツヤの部屋から私の荷物と、ケイゴの部屋からサナの荷物を移し変えた。
「よし、どっか出かけるか?正式に付き合うようになった記念として」
「あっ、うん・・・でもサナたちがまだなのにそれは少し気がひけるなぁ・・・」
「それもそうだな・・・」
しばらく沈黙が続いた。その沈黙が何故か辛く感じたから、私はテレビをつけた。
「あっ」
緊張していたのか、リモコンを落としてしまい、ケイゴと手が触れた。
「あ、ゴメン」
先に手を離したのは私だ。
いざ付き合うとなるとこんなにも緊張するものなのだろうか。

「いや、ミツ・・・」
ケイゴの眼は何故か怖かった。
「な、何?」
「いや、荷物整理したら?と思って」
「あ、うん。時間あるし、そうしようかな・・・」
さっきタツヤとあんなことがった後だから、妙に意識してしまう。私はゆっくりと荷物を整理していた。
すると、トイレに行っていたケイゴがでてくるや否や、話し始めた。

「ミツ、一緒に風呂入らないか?」
「えっ?」
「嫌?」
「いいよ!なんてすぐに言えるわけないじゃない・・・」
「そんなもんか?まぁ、いいや。大丈夫、湯気で大して見えないよ」
「・・・うん・・・」
「じゃあ湯ためとくわ。ここの風呂追炊きできるみたいだから。それに、たまる頃タツヤたちも帰ってくるだろ」
サナとタツヤはどうなったのだろう。荷物を整理している途中、そんなことが頭の中をぐるぐる回っていて、我にかえったとき手が止まっていることに気付くことが幾度もあった。
整理もし終わり、テレビを見ているとノック音がした。

「はい」
ケイゴは自販機にいって、いなかったから、戻ってきたのだろうと思った。一応、いつものくせでドアの穴を覗いて見ると、そこにはタツヤがいた。すぐにドアを開け、部屋に入れた。
「どうしたの?」
「ん?うん・・・」
「ダメだったの?」
「いや、ダメではなかったけど、妙に緊張しちゃって、自販機に行ってくるっていってこっちにきちまった」
「そう・・・何て話したの?」

―――――――――――――食堂

「サナ、まだ怒ってる?」
「ううん、タツヤが出した結果なら仕方ないと思ってるよ」
「そっか、じゃあ就職から進学に変えるつもりはないんだな」
「私が今から頑張っても無理だよ・・・」
持っていた珈琲カップを置き、俯きながらサナは言った。
「わからないじゃないか。まだやってもいないのに、努力もしないでそんなこというなよ!」
「何?逆ギレ?最悪・・・」
「最悪なのはお前だろ!俺はお前とずっと一緒にいたいのに、離れたくないから頑張って勉強一緒にしようって言ってるんだ」
「私が就職だと一緒にいられないの?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「気持ちが他の子にいってしまう心配があるから?」
「・・・」
そのあと暫くの間沈黙が続き、口を開いたのはタツヤだった。
「正直言うと、俺はお前がいないと他の子に眼がいってしまうと思う。だから、サナが就職から進学にしてくれたらその心配がなくなるんだ」
「どうしてタツヤは就職嫌なの?」
「嫌なわけじゃない。夢を叶えたいんだ」
「タツヤの夢なんか聞いたこと無いよ」
「医者だよ」
「・・・!そんなレベル高いところいく人に今から勉強したって追いつくわけないじゃない!」
「わからないよ」
「わかるよ!タツヤは頭いいからそういうこと言えるんだよ」
「そうかもしれないけど、俺がサナをスキだっていう気持ちはレベルも何も変わらないよ」
「スキだけじゃ恋愛は出来ないっていったのタツヤじゃない!それなのに今更ずるいよ!」
「そんなに嫌か!?」
「嫌とかそういうので割り切れないことだってあるんだよ!誰しもタツヤみたいな有能な人ばかりじゃないんだよ・・・」
「俺は自分のことを有能だなんて思ったことは1度もない」
「無くても!タツヤがなくても、私がそう思っているんだよ。もう私達だめじゃない?タツヤの言うとおり別れよう・・・」
「嫌だ。俺が医者になりたいのは収入があるからだ。もちろん、患者の痛みをやわらげたいのは前提にある。それよりも、サナとの将来を考えているからなんだ。結婚するならたくさん費用がいるだろう?」
「タツヤ・・・私も同じこと考えていたよ。タツヤと結婚したくて少しでも資金貯めたくて早く就職しようと思ったの。4年あれば結婚費用くらいは稼げると思ったのよ」
「サナに夢はないのか?」
「タツヤのお嫁さんになること以外考えられないよ・・・」
「俺ら同じこと考えていたのに行き違っていたんだな、笑える」
「ホント・・・」

―――――――――――――――
「というわけ」
「ハッピーエンドじゃない」
「まぁな」
「ハッピーエンド男はさっさと自販機行ってジュース二本買って帰りな」
「へいへい。ミツに話したら心ん中にあったモヤモヤ消えたよ、有難う」
「可愛い弟だもの」」
「はは、サンキュ、姉貴。姉貴も頑張れよ」
そう言い、タツヤは部屋から出て行った。それと入れ違いにケイゴが帰ってきた。
「あ、お帰り」
「ただいま、タツヤきてたんだな」
「うん、さっきの報告しにきてくれたの、上手くいったんだって」
「そうか、良かったな」
「うん!」
「あいつらも上手くいったし、まだ9時だしそこらへん見てまわるか?明日帰るんだしさ」
「そうだね」
私とケイゴはタツヤとサナの喜びを胸に、でかけることにした。どこかにでかけるといっても見渡す限り海しかない。
100mくらい離れたところにコンビニが一件あるくらいだ。

「夏って感じ」
「だな」
車が通らないこの道は、月の光でキラキラ光っているさざなみの音が聞こえるだけ。
「何か落ち着くなぁ」
右手はケイゴの左手と繋がっている。
「ミツ、俺さ頑張るから」
「ん?何を?」
「ん、色々・・・」
「ケイゴは大事なことハッキリいってくれないよね、ちょっとそこが淋しいよ」
「そうか、ゴメン」
そのときケイゴが突然手を離し海のほうをむいて、両手を口元に持っていき叫んだ。
「目指すはタツヤ越えだーーー!!!」
私は唖然とした。ケイゴは叫び終わってからこちらを向き、ニカッと白い歯を見せて笑った。
「ケイゴだったら!バカ!めっちゃ響いているじゃん!それに、とっくに越えてるよ!」
「ううん、俺の中では超えていない。ミツの中でも俺に隠してることあると思うんだ。それがなくなるまで、俺は頑張るんだ」
ケイゴはまた海のほうに向きなおし、また叫んだ。
「ミツーーーーーーーー!!!大好きだーーーーーー!!!」
「ちょっ・・・ケイゴ!恥ずかしいよ!」
そう言いつつも、嬉しい気持ちは隠せなかった。
ケイゴがこちらを向き、突然チュッとしてきた。またニカッと笑うケイゴ。

「よし、寒くなってきたから帰るか」
外は無風でじめじめと暑かった。
ケイゴは私の意見も聞かずに手を引っ張りながらホテルへと帰った。

「ケイゴ、痛いよ!ちゃんと歩くからちょっと離して・・・」
「あ、ゴメン」
「ううん、嬉しいよ」
愛しい。
そんな思いで私の胸は包まれた。
私はケイゴの腕に自分の腕を絡ませた。

「あのさ、聞きたいことあるんだ。タツヤと二人きりになったとき何もされなかったか?」
「されてないよ!」
あれはされたうちに入らない、今はケイゴだけがスキなんだから。
「ケイゴ、スキ、大好きだよ」
絡んでいた腕に力を込めて無意識にでた言葉だった。
「うん・・・」
ケイゴは照れていた。かわいいなぁ。たまらず、ケイゴのほっぺたにチュッとしてしまった。
「わっ、くそ、ミツ可愛いぞ」
「あはは、何か言ってる~」
「口説いてるんだよ」
お互い笑い合い、そうこうしているうちにホテルに到着し、部屋に着いた。
部屋に入りドアを閉めると、ケイゴの唇がかぶさってきた。幾度かキスを重ねたあとにふと言葉が漏れた。

「ケイゴ・・・」
「よし、ミツ風呂入ろう」
「そうだね」
ケイゴが私の服を脱がせ、私もまたケイゴの服を脱がせた。
「ケイゴ、筋肉凄い!」
「ミツも・・・な」
「ばかっ」
風呂でもそのあとベッドでも幾度もキスを交わし、幾度もお互いの体を求めた。
ケイゴの荒い息遣いが耳元を掠めるときが1番心地よかった。
時々ノック音がしたようなきがした。ケイゴも途中、それに気がついて止まったけど私達は上下で笑い合って、そのまま続けた。
お互いの愛を確かめるように、ずっと一緒にいられるようにと願いを込めて。

翌朝、携帯にセットしておいた目覚ましで起きた。
ケイゴは既に起きていて、お互い挨拶を交わした。

「ミツもシャワー浴びてきたら?」
今シャワーを浴びてきたケイゴの金髪はキラキラ輝いていてとても綺麗だった。
昨夜の状況がまだ体に残っていて、私は独りで風呂にいきたくなかった。
ベランダのところで窓の外を眺めているケイゴに後ろから抱きついた。

「甘えん坊」
ガラス越しに眼が会い、キスをした。
「ケイゴ、ふやけちゃうね」
「俺も一緒にいたいから、気にしないさ」
そういい、私達はまた昨夜のようにお互いの身につけていたものを脱がせた。
そういえばタツヤとサナはどうなったのだろう。
音沙汰ないってことは、上手くいったんだろうな・・・。
チェックアウトは10時。それまで誰も私達の邪魔をしないでね。











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